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不動産投資のリスク分析

  1. 不動産投資のリスク分析

3-1.不動産投資リスクの原因となる不動産の特殊性

■財としての「不動産」の特殊性とは?

不動産は、オフィスビルや賃貸マンション等日常生活においてごく自然に利用しているものであり、また分譲マンションの購入もかなり身近な事例として想定できるものである。しかし、その不動産を投資対象として考えた場合、伝統資産である株式・債券と比べると様々な特殊性が浮かび上がってくる。不動産特有のリスクは、これらの特殊性から起因するものであるため、最初に不動産の特殊性について整理してみたい。

 

①個別性 :同じものが2つとない性格

個別性とは、非同質性や非代替性とも言い換えられるが、不動産は本来的に”同一”のものは存在しない。例えば、大手町エリアに建ち並ぶ「Aビル」と「Bビル」は同一エリア内にあるオフィスビルであっても、敷地面積、建物延床面積、建物築年数・グレード、テナント属性、キャッシュフロー等についてはそれぞれ異なり、同じリスク・リターンを持つとは言えず、代替性があるとも言えない。また、一方、伝統資産である株式は、発行会社が異なれば同一とは言えないが、同一発行会社の株式は投資単位が設定されており、同一のものが多数存在することから、同質性・代替性がある投資対象であると考えられる。

 

②低流動性 :上場取引市場がなく、取引の流動性が低い性格

不動産は、伝統資産のように上場取引市場がなく、取引の必要に応じて相対取引されるのが通常である。不動産を購入又は売却しようとする場合には、不動産仲介業者を通じて売主又は買主をその都度探索する必要がある。従って、購入したいと考えても自らが希望する不動産が直ぐに見つかるか分からず、見つかったとしても希望する水準で購入できるかは分からない。また、売主・買主間で売買代金について合意したとしても、投資事前精査(デューデリジェンス)や売買契約書等の作成(ドキュメンテーション)を行う過程において、売買代金以外の事項についての協議が相当数存在し、取引成立までには相応の時間を要する。

 

③情報の非対称性(不透明性) :売主と買主の持つ情報レベルが異なる

売買取引における情報の非対称性とは、売主が取引条件を買主に提示する際、売主は全ての情報を保有しているが、買主は一部の情報しか持たない状況をいう。不動産売買においては、売主が所有者として不動産の全ての情報を保有するのに対し、買主は一般に限られた情報しか入手できない状況が存在する。但し、近年では買主側にて売買取引前にデューデリジェンスを行うことが一般的となり、売買前に物件情報の精査・分析が十分に行われるようになってきている。

 また、既に述べたように、日本では不動産取引に関する情報公開が一般には義務付けられておらず、取引内容は一般的には公開されないことから、不動産売買にあたり比較すべき売買事例が極端に少ない場合がある。

 

④取引費用の存在 :伝統資産と比べて高い取引費用が存在する

有価証券取引における取引費用は、主として売買手数料(ブローカレッジフィー)のみであるが、不動産取引においてはブローカレッジフィーに加え、情報探索・調査コスト(金銭的、時間的コスト)、いわゆる不動産流通税(登録免許税、不動産取得税、印紙税)が必要となる。

有価証券取引においては伝統的に業界の協定による統一基準が設けられていたが、金融市場の規制緩和の一環で1999年10月に完全自由化され、証券会社が任意に決定することができるようになった。一方、不動産取引においては、宅地建物取引業者の媒介により売買契約が成立した場合、報酬の上限値(売買代金が400万円以上の場合、売買代金×3%+6万円+消費税等相当額)が宅地建物取引業法及び国土交通省告示で定められており、業界慣行としてこの上限値で報酬の支払が行われるのが一般的であり、有価証券取引と比較して相対的に高い水準にあると知られている。

 

⑤売買取引の単位 :伝統資産と比べて大口となる売買取引単位

 上場株式の売買においては「単元株取引制度」が採用されていることから、一定の株数(銘柄によって異なるが、100株~1,000株が多い)を1単位として最低売買単位が設定されているため、多くの銘柄が10~100万円単位で売買が可能である。また、社債国債等の債権売買(先物取引を除く)についても多くは1000万円未満の単位での売買が可能である。一方、不動産は一般に不動産ファンドやJ-REITが投資対象とする「投資適格不動産」は最低でも5~10億円以上であり、Aクラスのオフィスビルとなると1棟で100~1,000億円の売買金額となり、伝統資産と比べると大口の売買単位となる。

 

⑥マネジメントの必要性 :実物資産であり運営管理の巧拙が価値に影響する

伝統資産については一定のモニタリングが必要であるが、当該有価証券の管理自体がその価値に影響を及ぼす訳ではないのに対し、不動産は実物資産であるが故に管理・運営の巧拙が資産価値に直結し、投資リターンにも影響を及ぼす。

 

上記の他、不動産の特性としては以下のものが通常あげられる。

  • 地理的位置の固定性、不動性:土地の地理的な位置は変わらず、動かない。
  • 永続性、不変性、不増性:土地自体は永続的なものであり変わらず増えない。
  • 用途の多様性:一定の制約はあるが、様々な用途で使用される可能性がある。
  • 併合及び分割の可能性:土地は更地であれば容易に分割可能であり、隣地を取得することにより角地を広げることも可能である。
  • 社会的及び経済的位置の可変性:地理的な位置は変わらないものの、その不動産の属するエリアの衰退・発展等により利便性・繁華性は変化することから、その価値は変わってくる。

 

不動産市場は、「不動産」という株式や債券と比較して特異な特性を持つ財を対象にしたマーケットであり、上記にあげたような特性から効率的な価格形成は困難であり、非効率的な市場であると考えられている。しかし、非効率的な市場であるが故に高い専門性を持った参加者のみが相応のリターンが得られる関係になっており、リスク分析の巧拙が不動産投資の最重要ポイントとなってくる。

 

3-2.不動産投資のリスクとは?

証券投資においてリスクとは、期待収益(投資収益率)からの乖離の程度を分散、標準偏差を用いて測った「投資収益の不確実性」と定義される。また、証券価格についてある一定期間においてどの程度価格変動するかを示すパラメータとして投資収益率の標準偏差を用いて定義され、ボラティリティー(volatility)とも呼ばれる。不動産投資においてリスクをどのように定義すればよいかが本節のテーマである。

 

■不動産のリスクファクターとは?

 不動産投資において「リスク」といった場合には、上記の「投資収益の不確実性」を意味する場合と「損失を被る可能性やその損失が発生する要因」を意味する場合の二つに分類できる。

 

不動産のリスクファクター

不動産リスク=不動産市場リスク+個別リスク+イベントリスク

 

  • 不動産投資リスク=不動産市場リスク+個別リスク

=賃貸市場リスク・売買市場リスク(システマティックリスク)+個別リスク・イベントリスク(アン・システマティックリスク)

  • 不動産投資リスクは、伝統資産と同様に分析することができるが、数値化できないアン・システマティックリスクの分析が困難である。

 

1.不動産市場リスク

キャッシュフロー(賃料収入)の減少に関するリスク

テナントの誘致競争に関するリスク

物件の取得競争に関するリスク

不動産の運用費用等に関するリスク

 

2.個別リスク

不動産の流動性、取引コスト等に関するリスク

不動産の欠陥・瑕疵に関するリスク

共有物件に関するリスク

区分所有物件に関するリスク

借地物件に関するリスク

借家物件に関するリスク

未稼働物件(開発物件を含む)の取得に関するリスク

鑑定評価額等に関するリスク

わが国における不動産の賃貸借契約に関するリスク

不動産の偏在に関するリスク

テナント集中に関するリスク

転貸に関するリスク

不動産に係る所有者責任に関するリスク

不動産の売却に伴う責任に関するリスク

民法上の組合の組合員になることに関するリスク

不動産に関する権利関係の複雑性及び公信力がないことによるリスク

売主の倒産の影響を受けるリスク

 

3.イベントリスク(ハザードリスク)

火災、破裂爆発、落雷、風雹雪災、火災、電気的事故、機械的事故その他偶発不測の事故に関するリスク

地震火災、地震破裂、地震倒壊、噴火、津波等に関するリスク

テナントの支払能力に関するリスク

不動産に係る行政法規・条例等に関するリスク

法令等の改正等に関するリスク